HIROTOH MORIKAWA
 

自分は夢を見るのが大好きであまりに楽しくてたまに捕まってしまう。何もするコトがない雨の日の午前中などに、あとほんの少し眠り続けるだけで、実際15分くらいの眠りでも丸一日あるいはもっと長い時間分位の、様々な思いもかけない体験が出来る。そういうふうに2時間くらいベッドの中で過ごしたあとはすごく充実した気持ちで目 が覚める。3〜4日で世界中を旅してきた後の様な気分。

気が付けばいつの間にか自分が普段ほとんど無意識に反芻している記憶、参照する思 い出の一部は明らかに夢の体験から来ている。
不思議なコト、素敵なコト、楽しいコ ト、ヘンなコト…こうやって書いている今もいろんな夢の曖昧な記憶を思い出してい る。

ここではそういう夢について、見たままを書いてみます。たまに。 記憶によって今現在の人格が構築されているのだろうから。

2005.2.20

引っ越してきてからここ半年以上、 ずっと手付かずだった奥の部屋を整理したいと思った。
もともと家財道具は少なく、メインで生活している手前の部屋も充分ガランとしていいカンジなんだけどさらにすぐには使わないモノを全部、奥の部屋に整頓して押し込んでしまおうと思ったのだ。こういうコトは、思い立ったらすぐやらずにはいられなくなるタチだ。

どうしてなのか、奥の部屋は前の住人の痕跡がいろいろ残ったままだ。今までもこういうコトは何度かあったけど。

左の壁のちょっと高いトコロに後付けした意味不明の違い棚。まあこれはヨシとして 突き当たりの壁一面に点々と細かな写真と、それに付随した一言コメントがノートを細長く手で千切った様な紙に書いて張ってあるのだ。

第二次大戦中のヨーロッパ、休暇中の兵士が地元の女性達と撮ったスナップ、という雰囲気のモノが多かった。

メモ書きには voia oue ais とか、なんかよく分からないけど響きの良さそうな短い言葉が、細いクレヨンみたいな筆跡で書いてあった。右端には、古い洒落たギャング映画の大きなポスターが張ってある。今まで全然気が付かなかったんだけど、注視していると人物がゆっくりループで動いている。

「あれっ?」と思って振り返ると部屋の入り口付近、机の上堆くPC雑誌やソフトの箱が積み上がった天辺に置いてあるプロジェクターから、こちらに投影している。三コマくらいが上手い具合にクロスフェードして動いている様に見える仕組みらしかった。確かにカシャカシャいっている。一瞬「ここにプロジェクターあったんじゃない。買わなければヨカッタ」と思ったけどすぐに、これはスライドプロジェクターだから映像は観られないのだ…と思い直す。

それよりも引っ越して以来、ずっとこの電気代を払っていたのか… さらに見ていくと、もう一枚、やはり動く小さいポスターがあって、振り返るとそれもやっぱり小さいプロジェクターが投影していた。

壁は大きな三枚のパネルで出来ていて、微かな隙間があった。そこから覗くと、部屋から漏れ射し込む光くらいでは、まだ奥まで達しないのか真っ暗だ。 どうやらそこそこ広い空間がまだ広がっているらしい。

いつの間にか大家さんがクリーム色の作業服を着たおじさんを従えてやってきている。

左の壁をとりあえずハズしてもらう。 そこにはタンスと、その上に大きめの水槽があった。ここにも電気が通っていてポンプなどは正常に作動しているのだろう。澄んだ水の中、色鮮やかな死骸が積み重なっていて、 その上にほんの少しだけ、 生き残った魚がゆっくり漂う様に泳いでいた。 真っ暗な中で死んだ魚を食べてこれまで生き延びてきたらしかった。

真ん中のパネルをはずすとガラスが凸面に湾曲した大きな水槽があった。こっちの水槽には沢山の魚が泳いでいた。巨大な金魚と、小さくした錦鯉ふうが沢山泳いでいた。 久々に射し込んできた光に、鮮やかな白と赤の模様が艶めかしい。 死骸もそんなに見あたらなかった。

エサも与えられずに真っ暗な中で今までどうやって生きてきたのだ?

一瞬綺麗に思うのだけど、全体としてやっぱり気持ち悪いし、どうにかしたい。 でも、見に来た大家さんはどうも「このまま放っておきたい&もしも撤去したくても費用は一切払わない」つもりらしかった。そういう顔をしていた。

2005.2.11

あまりパッとしない女の子達を連れてビルの中に作られた屋台村のようなトコロで軽く食事をして、外に出てみると雨が降っていた。 傘も持っていないし、じきに上がりそうだし、そういえばオナカもまだ満腹じゃないし、もう少し飲み食べしようかな…と思い直し、もう一度中へ。
入り口脇にあるのは安くて新鮮なネタ自慢のお店。値段を書いた黒板と一緒に氷見のブリとか美味しそうな生シラコとかステンレスのバットに並べて店の前に出してある。これから仕込むのだ。

ちょっと吟味しようと思い、しげしげバットを覗き込んでいると横から「おお、ここが安いよ。ここにしようここにしよう。すいません6人なんですけど〜」抑制の効いていない声を張り上げながらちょっと間抜けそうな学生風がやって来た。
「おいおい4人だろう、俺たちはもうここにいるじゃないか」 見ると店の奥のテーブルにすでに6人のグループのウチ二人がもう座っている。 そして一つおいて一番手前のテーブルにも全く同じ二人が座っていて手招きしていた。

なんだか落ち着かなさそうな気がしてきたので、やっぱり飲み直すのは止めて再び外に出た。
先ほどとは違い雲の底の色がだいぶ薄くなってきていて、もうじき雨は上がりそうだった。

ふと、バスが表通りをふさぐ様に横向きに停まっているのに気がついた。いつから道を塞いでいたのだろう。一種異様な雰囲気の車体なので誰も文句を言わなかったのだろうか。艶のないオリーブ色。マイクロバスとキャンピングカーっぽい二台が蛇腹で連結してある。軍隊から払い下げた特殊車両をちょっと改造している様だった。
しばらく見ていると次々同じ様なファッションセンスの一団が乗り込んでいく。どうも大家族とその友達一行が旅行中らしい。
そのうちエンジンがかかり、ディーゼルの黒い噴煙があがる、絶妙の車体感覚で歩道に乗り上げ電柱ピッタリまでバックして(それでも50センチくらいしか下がっていないのに)器用に一発で切り返し動き出す。すぐ側にある駐車場に空きが出来たのでそっちに移動するらしかった。

ほどなくして黄色い服を着た小学校中学年くらいの男の子が袋をさげて帰ってきた。こっちを見て気さくそうな笑顔を浮かべている。思わず声をかけた。 「そのバスすごいね。何処から来たの?」中に入れてもらう。

彼の袋の中を見せてもらうと、AYURAのマークがついたモノがいろいろ入っていた。「あれ、アユーラが好きなの?男の子なのに?」「そうなんや。いま学校でアユーラ流行ってんねん。マークもカッコエエやん」
金沢AYURAにしかないグッズをいろいろ買い込みに来たのだと言う。 私は以前ここのブランドイメージCDを作ったコトがあるので、思わぬ偶然にちょっと嬉しくなってきた。
「僕ね、昔AYURAのイメージをテーマにCD作ったコトあるんだよ。マークが盤面イッパイに印刷されているんだ。多分まだ、このマークの付いた自分の名刺も持っているよ。ちょっと探してみるね、それを君にあげるから連絡してね。CDも探しておくよ。」

ところがさんざん探してもいっこうに出てこない。違う人の名刺は沢山出てくるのに。 しょうがないので誰かの名刺の裏にペンで電話番号などを書こうとしたけど、今度は借してもらったペンが次々擦れて字が書けない。
やっとインクがちゃんと出るヤツで書こうとすると、今度は紙がインクをはじいて、書いたそばから、みるみるインクが表面を滑り出し全然違う表記になって定着した。
見かねた彼が自分達の連絡先を書いた紙を渡してくれた。不確かな字で電話番号だけ書いてあった。

振り返るといつの間にか、お父さんが帰ってきて窓から顔を覗かせていた。想像していたのとは違う、中小企業の技術者の様な風貌だった。たっぷりした髪を横分けにして、細かいストライプのワイシャツの下にTシャツをのぞかせ、柔和な笑顔。
こういう人ほど、いざとなったら一番コワイんだろうな…とふと思った。

「ウチの子なんかと話してもつまらないでしょう?」 「いえいえ、しっかりした面白い子ですね、ありがとうございました。そろそろ失礼します」言いながら降りようとして、ステップに立ったらバスが動き出した。歩いて帰れる距離なのだけど、ウチまで送ってくれるというコトらしい。

なぜか一番下の子、たぶん5歳くらいの男の子がチョコンと運転席に乗っていた。

お父さんが横から「この子は運転がとっても上手なので、大体任せているんですよ」と満足げに言う。(上手とか、そういうことじゃ…(笑)) その子が狭い駐車場をすごい勢いでガンガン切り返している遠心力で振り落とされない様に、しっかり掴まっていると、出口まで来て一旦停止した。

「今までは、倍速だったけど、これからは通常に戻す?」 って彼が、幼い、くぐもった小さな声で尋ねる。面白そうなので 「このまま、行って。でもこの先はすごく細い道もあるよ、このバス通り抜けられるの?」と聞くと
「大丈夫、その時は僕のチョ〜ネンテンケン!が炸裂するからさ」 と今度は元気のいい甲高い、ちょっと鼻にかかった声で言う。

駐車場を出て最初の突き当たりを左に曲がると、はやくも用水沿いの幅が車一台半分位しかない道。さっそく向こうから白い乗用車が近づいてくる。 とてもすれ違い出来そうになかったけど、近づくにつれてその車はどんどん小さくなって来た。
「大きい車から見ると、まわりが小さく見えるだっけ…」そんなコトをぼんやり考えた。
対向車は大きさだけでなく、動きもだんだんヒョコヒョコし始め、ラジコンカーの様な挙動で脇を抜けていった。
用水にかかる狭い橋を、総ての角をギリギリに使って一発ですり抜けたあと、いよいよ狭くてクネクネした城下町特有の路地に入って行く。
「ホントにぬけられるのか…」前方に明らかにこの車の横幅よりも狭そうな箇所もみえてきた、さらにまた軽自動車の対向車がくるその時、彼が「チョ〜ネンテンケ〜ン」と叫んだ。

同時に車のフロントガラスから見えている風景が、ドアの覗き穴から見える風景の様に歪みだした。車の進む方向だけ空間が歪んで広がっている様に見える。
対向車も脇に逸れるに従い小さくなっていき、仕舞いには電柱脇にすっかり納まって待機している。
「こんなトコロ抜けるのはまだ簡単だよ。以前ナガタさんの仕事の時に、渋谷の裏道で細いトコロあったなぁ」なんて思い出している。 別に魔法を使っているワケではないので限界もあるらしかった。

ナガタさんと仕事…こんな小さい子なのに…、ナガタさんはこの子のコト何にも言っていなかったよな…まだまだ知らない人脈広いんだな…今度東京に帰ったらちゃんと紹介してもらおう…などと考えているウチに犀川沿いの、ちょっとだけ広い道が路地の向こうに見えてきた。

また少し雨が降り始めたのか、道路はしっとり濡れていて水銀灯の白い光が綺麗に反射していた。

2005.1.9

何かのパーティーの帰り、ジロウが車で来ているというので、ついていった。駒沢通り槍ヶ崎交差点〜恵比寿間の様な場所に路駐してあるのはパールブルーの新車のタスカンだった。どうしたの?と聞くと「冗談半分でローンを申請したら通ったのでとりあえず買ってみた」と笑みを浮かべながら言う。
お金もないのに、大丈夫なのか。ジロウは全く気にしていない。でもその車がジロウのモノであるコト、は自然な当たり前のコトにも思えた、と同時に、確かにそれは気にしなくてもいいコトなのだと思えた。

内装はタンだった。細い横畝がはいったバケットタイプのシート。走りながらジロウは「ああ、ここはこうなっているんだ…」とか「なるほど…」とか、いつもの冷静な口調で盛んに呟いている。ホントに買ったばかりなのだ&ちょっとアブナイんですけど。

予想とは裏腹に滑るように静かに走る。目の詰まった低く太いエンジン音がかすかに聞こえてくる位。
どうやらタスカンの形をした、別の車の様だった。 ライトが点いていないのか道が暗い。でもジロウに言うと「僕には見えているよ」みたいなコトをいう。ホントにそうなのか、彼流のうそぶきなのか分からなかった。

そのうちトンネルにはいって、何回か分岐を経た先、路上に崩れた瓦礫がぼつぼつ落ちている。「これは底をこするぞ」と思ったら、彼はその手前で車を止めた。道の真ん中。
降りるつもりらしい。「セキュリティーボタンを押してくれよ」と言うのだが、ドアに三つついているボタン状のモノはどれも小さくて、機能もよくわからない。もう一度教えてもらうと声が「そんなコトもわからないのか…」みたいなムードいっぱいになっていた(笑)
それはドアノブのすぐ下についている、5ミリくらいのドームトゥイーターにしか見えないスイッチ?で、円周に沿って小さくセキュリティー何々…と英語で書かれている様だった。分からないよ(笑)これじゃあ。
ボタンを押すと、作動中のランプが三つ、点滅し始め、同時にウインドウが半分くらい下がって止まった。(どういうセキュリティーなんだ…)

ボタンに集中しているうちに、トンネルの中から路上になっていた。埼玉の何処からしい。Y字路の真ん中に車は止まっていた。もう瓦礫は無かった。時間はお昼頃になっていた。

ジロウは何も言わず、すぐ横に建っている、真っ黒の、木造なのに4階建て、所々に正方形の窓がはめ込まれた建物に入っていった。

とりあえずタスカンを携帯で撮って、日記にアップしようと思い(笑)、私は車の周りをうろついてポジションを探した。いつの間にかタロウちゃんも‘いつものスタイル’で立っていた。
上の方から「あそこにいるのは、アーティストってやつに違いないよ」と声がする。見上げると、建物の途中に小さいベランダ状のモノが突き出していて、そこから地元の住人たちか覗いている。

軽く会釈して、再び携帯を構えたりしているとベタっとしたモノがアタマの上に何か落ちてきた。太い毛糸によく噛んだガムを絡めた様なへんなもの。髪の毛についてなかなか取れない。どうやらベランダに「下を歩いている人に何かいたずらしましょう」とかなんとか書かれた札がかかっているらしい。

このヘンな建物でジロウがワークショップを開催しているのだった。

それっぽい女の子が私の横に来て「この車をバックにジロウさんのサインと一緒に写真が撮りたいですぅ〜!」なんて言い出すので「じゃあ、どうせなら本人がいいでしょ?中に入ろうよ」と一緒に中に入ると、中にはさらにそれっぽい(笑)男女でいっぱいだった。やたら親しげに話しかけてくる女性もいて、どうやら昔付き合ったコトのある女性らしかったのだが、名前が思い出せない。困ったな…

しばらくすると、今度はジロウの提唱している(実際はしていないと思うけど(笑))マラソンをしながらアートを鑑賞する、というイベントの時間が近づき(精神状態の変化、芸術と健康増進の合致など、いろいろ御託があるらしかった)山伏っぽいデザインのジャージに着替えたジロウを先頭にどんどん外に出て行く。

私も一緒に外に行きたかったんだけど、先ほどの女性や、飲み屋の主人ふうの熱心な地元の主催者などに話し込まれてしまい、なかなか解放してくれない。中がどんどんガラガラになってきて、私と主催者と、その奥さんらしいフィリピーナの三人になってもまだ、話は続いた。もう、マラソンは出発してしまっていた。

2003.8.19

京都の遠い親戚の家で何か、年に一度の多くの人達のあつまる行事がほぼ終わってバタバタと大勢が次々帰っていく中に私はいた。広い三和土にはどれもこれもソックリの光沢のある黒いずんぐりした靴がごちゃごちゃ並んでいた。自分の靴が見当たらず、側にいた女中なのか遠い親戚なのか分からない着物の女性に尋ねてみるとひときわ大きいずんぐりした靴の口に突き刺す様に入っている私の靴を出してきた。どういう収納法なのかよく分からないけど、他にもそういうふうにしてある靴がいくつかあった。

打ち水の撒かれた門までの飛び石の、窪みにたまった僅かな水に弱い白熱灯の光が反射していた。表は路面電車通の通る広い道、城跡が近いこの辺りは木も多く、夜の始まりのいい香りのする風が漂っている。間もなく花火がかなり近くで上がり始めた。思わず見とれたが、辺りの人達は毎日のコトだからなのか特に観ている様子はなかった。もう一つの靴を忘れていたコトを思い出し取りに行く。そういえば私はここにしばらく滞在していたのだ。

戻ってみるとほんの僅かの時間しか経っていないのに、残っていた靴は全て箱に入って三和土と床板の間の隙間に二箱づつきっちり収まっていた。せっかく片づけたのに、何をしに戻ってきたのか…と女中さんが二人、怪訝そうにしている。

探すのにすっかり手間取ってしまい表に戻ってくると、友人達の様子がちょっとおかしい。玄関脇の薄暗がりで私を取り囲み、独り言の様に地味に文句を言いはじめた。どうやら乗るハズのバスに乗り遅れたらしい。通りの向かい側のバス亭にはさっきまで大勢いた人達がきれいにいなくなっていた。でも「あのバスを逃したせいで15分も無駄になる」とか、「30分も待つコトになるなあ〜」などとまちまちなコトを言っている。このまま文句を言わせておくのもな…。計算してみてそんなに高くつかないコトが分かったので流しのレンタカーを拾う(さすが観光地だ。そんなモノがある)運転していた学生アルバイト風の男は無愛想な顔のまま歩いて何処かへ行ってしまった。クラウンをふやかした様なカタチなのに、乗り込んでみると運転席が最近自分が買い換えたばかりの車にソックリでしっくりきた。

うろ覚えの通りを右折左折しているウチに、いつの間にか真昼の様な白い明るい日差しの中を走っていた。前は延々自分の拾った車と同じカタチの白い車がゆっくり連なって走っている。陽炎の中、車列の前方に行くに従って蜃気楼の中のごとく距離感が喪失していた。気が付くと反対車線を走っていた。何台かはこっちを向いている様に見えたけど、距離は縮まらない。左車線に戻ろうにも、もうすでに向こうから来る車でいっぱいだった。しばらく進むと、道路上に全部ウレタンで出来ている様な制服を着た交通警官が何人も立っていて、その誘導で今度は四車線の道を一車線づつ入り乱れて通行するコトになった。でも一台一台がムカデの節みたいに繋がっているかの様に動いていて、事故になりそうなカンジは一切なかった。警官の顔はみな夜店で売っているお面みたいにツルツルしていた。そのうちますます距離感は喪失していき、進んでいるのか止まっているのかすら分からない位になった。

大きなブラインドカーブを曲がると広場に出た。先行車は一切消えて無くなっていて、また静かな夜に戻っていた。当てずっぽうに一番広そうな左の道を行ってみると、間もなく薄暗い見捨てられた駐車場の様なスペースで行き止まった。あんなに道路を埋め尽くしていた他の車はどうやら本格的に消えたみたいだった。しょうがないのでまた広場に戻ってみた。子供達がテキトーに空き地に作ったスキー練習場の様な、でたらめな勾配で構成された小さな盆踊り会場くらいの広場を中心に古い石造りのお店が並んでいた。ほとんどの店は明かりを落としていて、奥に人の気配はする店はあったけど通行人は全くいなかった。チョゴリの様な配色の大きな垂れ幕をいくつも垂らした、中では一番大きなお店も、もう閉店が近いのかその垂れ幕を照らすライトは消灯しており、暗い空から何本も黒い滝が降りている様だった。髪を短く切りそろえた中年の痩せた黒い服の店員が一人 愛想笑いを浮かべるでもなく、こちらを見ながら立っていた。とりあえず車を妙な角度のまま止めて一人が様子を聞きにいくコトにした。後ろの席に残ったうちの一人は、さっそく携帯で友人に電話をし始めた。その友人にはすぐ連絡がついたものの、共通の友人であるはずの‘中村’なんて知らない、そもそも私達には‘な’で始まる友人などいないよ。と言われた。私が携帯を取り出してみると、自分の携帯とはビミョーに違うカタチになっていていろいろ思い出す友人の名前は一切なかった。

垂れ幕のお店の左側に小さいショッピングモールの入り口があって、売れそうもないバックや服を均一価格で売るワゴンが仕舞い忘れた様に置いてあった。店員は居なかったけど、傍らに所在なさげに太った男がブツブツ言いながら立っていた。最初、精神薄弱者が独り言を呟いているのかと思ったけど、近づいてみると伊集院光にそっくりで、例の口調でさかんに何か話しかけてくる。伊集院だろうと聞いても返事をしないので、しつこく聞くと‘今俺達の一族はあまり人気がないので今なら安い値段でファミリーになるコトが出来るよ’という意味のコトをちょっと不満げにしゃべった。どうやら伊集院は何人もいるらしい。お金をはらって何かすると同じカタチになるというコトのか…

どうやらパラレルワールドに来たらしい。車ごと5人も一緒に来られてよかったね、と言ったものの、皆あまり賛同しているカンジもないし、かと言って深刻に困った様子もない。‘先が長くなりそうだから今のウチにトイレに行っておこう’と女性達が言い出したので、そのままショッピングモールの中に入った。

彼女達がトイレに行っている間、モール内の閑散としたフードコートをうろつきながら昔仕事でビデオクリップを作った曲の替え歌をふと思いつき、‘あなたもパラレル 私もパラレル’などと歌い出すとすぐに、側にいる友人とお互いを指さしながら陽気に盛り上がった。ちょうど彼のツボに入ったらしく、たまに少し身を捩らせまでして笑っていた。不安を感じている様子は微塵もなかった。でもその友人は女装というワケでもないけど、スコットランドの民族衣装に似たカタチの白っぽいサテン生地のスカートを履いていた。それに随分痩せてしまっていた。

もともとそういう趣味だったのか、この空間に入ってから徐々にそうなったのかもう今となってはよくわからなくなっていた。とりあえず、自分もトイレに行っておこうと思った。

2003.5.13

天井がパノラマルーフになっている幅の広い軌道バスに乗って、近代的なビルの建ち 並ぶ島々を結ぶハイウエイを新しい‘高速鉄道’に乗るために、最近出来たばかりのステーションビルに向かって移動していた。夕方の濃い青空に浮かぶ、微かに赤みを帯びた雲が美しかった。ステーションの真下の片側三車線の真っ白なトンネルに入ると、外の光よりもはるか に明るいすっきりした光で満ちていた。

正面から巨大な銀色の鉛筆の様なカタチの列車が同じ軌道上をこっちへ向かってゆっくり移動してきて、そのままでは衝突する気がしたけど、程なく一両ずつ蛇腹状の連結部分が170度ほど折れ曲がり軌道からそれて、となりにトンネル状に空いていた格納庫に器用に、すっぽり入っていった。その間一切金属の擦れ合う音などはしなかった。

自分達の乗る予定の列車は地面の中を主に進む、銀色の巨大なミミズの様な格好をした乗り物だった。乗り込む前にまず、その乗り物についての展示スペースに通された。スポンサーからの宣伝や簡単なレクチャーをうけなくてはいけないみたいだった。間もなくちょっとしたオープニングアトラクションが始まった。それなりの映像効果と音の中、あちらこちらの壁がブーンという振動とともに順々にミミズのアタマ状に膨れあがり、それはこの乗り物が地中を力強く進むイメージを表現したモノらしかった。お金のかかった演出だったけどあまりいいカンジはしなかった。そのうち、スタッフ達が誰彼ともなく、なにやら話しかけ始めている。そばで聞いていると乗客を代表して何か一言ステージに登って話して欲しい、という交渉だった。なんだか面倒なカンジになってきたので、しばらく隠れていようと思い、たまたま近くにあった階段で、すこしの時間だけ下のフロアーに避難するコトにした。

下に行ってみると、そこは最近改装したばかりの老舗の蕎麦屋だった。古いカタチのまま、思いっきり明るい色の白木をふんだんに使った内装で、若女将をはじめ、店の従業員達の活気溢れる声が響いていた。まもなく玄関でひときわ響くテノールの声がして、そこの名物出前持ちの老人が戻ってきた。古くからその店に伝わる宣伝文句を優しい節回しで唸りながら岡持をもって歩き回るのだそうだ。外から帰ってきてもそのまま、一節だけ名調子を聴かせてくれるのもこの店の名物で、お客達はみな、食べている手を休めてそっちを向いた。

自分はまだ席についてなかったので、そのまま玄関の方に行ってみると、老人が担いできたのは、岡持というより、江戸時代の夜鳴き蕎麦屋が引いていた屋台くらいの大きさの段違いの棚の様なモノで、小柄な老人はすっかりその陰に隠れて見えなかったけど、所々しか判らない古い言葉を使った優美な声がその向こうから流れてきた。

一節唄い終わると常連客達が違う唄をリクエストし出した。「ぜひ久々にあれをやってくれないか…」そんな声がする。老人の快い承諾の声がすると店中はますます沸いた。とほとんど同時に老人は玄関脇のちょっと低めの神棚くらいの位置にしつらえてある、光沢のある黒い板の上に身軽に飛び乗った。老人は日本猿が立ち上がっている位の大きさしかなかった。飛脚の様な服を着ていて露出した皮膚は顔も体も全部濃いピンク色で、古いNHKの人形劇に出てきそうな、ざらざらした布で出来ているみたいだった。目だけは作り物ではない生命の光が宿って いたけど、白目の部分が無く全部鈍く輝く黒目だった。老人は黒い板の上でひらりひらりと舞いながら唄い始め、皆それに合わせて手拍子をとりだした。音程の上下動を三分の一くらいに減らした炭坑節の様なメロディーだった。僕が一拍目と三拍目に叩いていると、何人かは二拍目と四拍目に叩いていて(要するに四拍全部手拍子がある状態)うるさい。

いつの間にか入り口に一番近いテーブルに黒いスーツを着た男女四人組が陣取り、分厚い本を何冊も広げながらさかんに議論している。手拍子を何拍目に入れるべきなのかを決定する委員会のメンバーだった。

議論に結論が出ないまま、うるさい手拍子が続いているまま、老人は唄い続けた。

2003.5.1. ハワイのホテルで

ちょっとだけ蒸し暑い曇天の晩春の夕方、大きな公園の端にある、勾配を活かして作られた階段状のベンチに2〜3人の仲間と座ってワインを開けてサンドウィッチを食べた。
食べ終わって立ち上がると、食べ終わった容器やワインのビンなどが、エスカレーターに乗っているみたいにゆっくり下の方に移動していった。その階段の表面は簾状になっ ていて、座っている人達はそうはならないんだけど、上に置いてあるモノは人の手を離れるとゆっくり移動していく仕組みになっていた。

階段を下りたその先は幅の広い太鼓橋になっていた。先ほどの簾状の表面はここにも ずっと続いて、いろんなモノがゆっくり移動していた。
その中になぜか短い文章を墨で書いた和紙も沢山あった。それは置いてあるというより、張り付いていた。

歩きながら二つ三つ読んでみると、いきなり涙がこぼれそうになったけど、一緒に歩いている人達にヘンに思われそうなので、我慢した。

‘それはそうなんだけどやっぱり……’とか‘こんなに嬉しい気持ちになったのは、たぶん……’とか一見しただけではどうでもいい様な文章なんだけど読むたびにその言葉にまつわる膨大な曖昧な記憶の塊がどうしようもなく心に浮き上がってきた。

その簾の上には自分の心の中にある個々の‘アイティム’が具現化して流れていく仕組みらしかった。だからさっき食事した時の容器なども流れてくるし、その時々に心に浮かんだ気持ちのキーになる言葉も具現化して流れてきていた。

太鼓橋の先は小さな池になっていて、どんどんアイティムが流れ込んで行く。そこで 簾から剥がれて浮かんでいるモノは記憶の外に、沈んでいくモノは心の奥底に、剥がれないモノはそのまま心の表面にくっついているモノらしかった。さっき飲んだワイ ンのビンなどは浮かんだままぐるぐる回って何処かへ消えていった。

どんどん辺りが暗くなってくる中、僕はそこに浮かんで消えていく泡沫をしばらく眺 め続けた。もう気持ちはすっかり落ち着いていた。

2003.03.01

大好きな母校の小学校を紹介する仕事をもらい、何人かの取材陣を連れてとりあえず屋上に上がってみた。
すっかり黒ずんでひび割れた、ざらざらしたコンクリートの床に立つと、いろいろ懐かしい思いがした。

見渡してみると、中心から少しずれたちょっと変わった場所に45度の二等辺三角形の かたちに空いた吹き抜けがあったので、そこからの眺めも解説しようとして覗いてみると屋上は4階の上にあるはずなのに、2階分位下にはもう地面があった。もっとよく 見てみると最初見た時よりも地面まではもっと遠くて、吹き抜けからの眺めというより飛行船の底についた覗き窓から下を見ている様な具合で、緩やかに起伏のある地形 の上に、複雑に道が交差する旧い街並みが、ずっと奥の方まで静かに広がっていた。道路も周りの地面も同じ赤土が乾いた様な色だったけど埃っぽいカンジは微塵もなかっ た。手入れの行き届いたこんもりした街路樹はきれいな濃い緑色をして規則正しく並んでいた。
そういう場所に建っている自分の母校を誇りに思い、そこで幼少の頃を過ごした自分 を幸せに思った。

取材陣にもっとよく解説しようと思い下に降りてみると、複雑に立体交差している道だと思っていたのは、実はおそろしく巨大な、恐竜の背骨のカタチに似た、造り立て のテトラポットの様に白いコンクリートで出来た、ジェット・コースターの桁に似た構造物だった。

しばらくして微かな振動が伝わって来たと思ったら直後、その上を巨大な、直径1.5 メートル、厚さ20センチはありそうな鈍い銀色の歯車が横向きに回転しながら3個通り過ぎて行った。ちょっとだけ間をおいてまた何個か通り過ぎた。次々来るらしい。通り過ぎる度に歯車のギザギザが風を切る微かな音がした。

自分が立っている足下も同じ真っ白な構造物で、あの巨大な歯車はくねくねと長い軌道を移動しながらやがてこっちにもやってくるらしかった。此処に立っているワケに は行かない様だった。とりあえず目の前に横たわっている桁を3本飛びこした先に黒っぽいガラスの様なモノで出来た一畳分くらいのスペースが浮いていたので、なんとか 上手く歯車をかわしながらそっちに飛び移った。
ほっと一息ついたけど、いつまでもそんな狭い場所に浮いているワケにもいかない予感もした。見下ろすと、ちょうどガラス以外は全部透明な細長いビルが建っている様 な具合に、やはり一畳くらいの大きさのガラスの板が2枚づつ縦向きにならんで遙か下まで連なって浮かんでいたので、それを足で順番に割ってショックを和らげながら 下まで降りていくことにした。
降りていく途中でいつの間にか、色が灰色だったけどスーパーマンの様な服を着た男 も合流して隣にならんで浮いているガラスを割り出した。その男は単に割るのが楽い だけで、特に下に降りる事が目的では無いみたいだった。

ぐんぐん近づいてくる景色は、最初吹き抜けから覗いた時に見えた穏やかな地形の街並に似ていた。

2003.02.17

知り合いに連れられて行った映像作家のウチは壁が全部、細かい粒の入った黄土色の 土で出来ていてどこの角も丸みを帯びていて巨大な蟻塚の内部にいる様だった。体を横にしてやっと通れる位の幅の入り口を通って仕事部屋に入るとくすんだ色の毛 布の上に雑雑と映像機材が積み重ねられ、電球の光がこうこうと明るく広がっていた。 何十時間もぶっ通しで作業している途中のイヤな疲労感が漂っていた。作家本人は不在だった。

横目で見ながらまた体を横にして次の部屋に行くと、長年着込んですっかりもとの色がわからなくなった(といってももともとそういう色なのだろう)囚人服の様なプル オーバーを着た男達が何事かぼそぼそつぶやき続けながら密集して座っていた。

みんな手にはアルマイト製のお椀を持っていて、何かよくわからないくすんだ色の食 べ物が入っている。自分もいつの間にかその仲間にはいってお椀を持って座っていた。
順番にお椀を人から人へ回して、そこへ自分のお椀の中身を少しずつ入れ、一通り入っ た時点で立ち上がり、もっと奥の部屋へ行くコトになっているらしかった。

そのうち自分の番になったけど、なんだか変だしバカらしいので従わないでいると、 周りが低い弱々しい、でも意志のこもった声で私を非難し始めたのでとりあえずその通りにして奥の部屋へ行くと、そこは食事をする大きめの部屋で薄暗い蛍光灯と何処 から入ってくるのか分からない弱々しい自然光の下、さっきのお椀の具を混ぜてカレーの様なモノを作っていた。
めいめいが手に持っていたお椀の中身をまず、入り口付近に置いてある巨大な寸胴に 入れる。空になったお椀を持ってもう少し歩いていくとちゃぶ台が並べられていてそれぞれ、ライス大盛り、中盛りなどと書いた札がかかっている。自分の食べられる量 を考えて自由に座るらしい。とりあえず大盛りの札がかかった場所に座ると、両端にもすぐに、私を牽制する様に人が座った。

最初それぞれお互いのちゃぶ台に載っているご飯を見比べたりしてどことなく警戒している雰囲気だったけど、暫くすると打ち解けて「じゃあ、そろそろ一緒にカレーを取りに行きましょう」というコトになった。ちゃぶ台の長い列の脇を通り越した先に、さっきの巨大な寸胴の中身を元にして作った5種類くらいのカレーの入ったフツーの大きさの寸胴が並んでいた。

最初真ん中のカレーを取ろうとして中身を見てみると冷凍焼けをおこしている様に見 えるどす赤黒い、硬そうな細かいサシの入った骨付きの羊肉のとても一口では食べられない大きさの固まりがごろごろ入っている。横に立っていた男が「これはとても食べられない」と言ってちょっとびっくりした様な投げやりな声を出して向こうに行ってしまった。
自分もそれはやめにして、一番端にある海老の入ったカレーにするコトにした。でも いざオタマを持って中身をすくってみると、こっちも普通目にするブラックタイガーと長さは同じ位なのに4倍くらいの太さの、しかも熱が通っているハズなのに、表面の模様は黒白のままのモノがごろごろ入っている。これもあまり食べる気が起こらない。その隣に豚肉の入ったカレーがあったが、こっちはこっちでお椀をはるかにはみ 出る長さに切った、表面の毛がついたままの豚足がごろごろ入っている。でもオタマに乗せてみるとこっちはかなり柔らかく煮込んである様なので、それをすくって食べることにした。
皮を裂いて覗いてみると中の肉はすごく油っこそうだったけどちょっとだけ美味しそうだった。